ORAL FRAIL

オーラルフレイル?

口腔機能低下症(オーラルフレイル)とは、その名称の通り口腔内の諸機能(咀嚼、嚥下、構音、唾液、感覚)が低下してしまう症状のことを差します。摂食嚥下障害はその名の通りに咀嚼や嚥下といった機能が思うように動かなくなってしまうことを指します。どちらも加齢が主たる原因とはされますが、それのみならず各種の疾患やあれこれの障害など様々な要因が挙げられます。

目 次
1.厄介なトラブル、口腔機能低下
2.口腔機能低下症による摂食嚥下障害
3.徴候は?
4.低下症の診断
5.判定する器具
6.対策方法
7.早期発見・早期予防を心掛けましょう!

DECREASED ORAL FUNCTION

厄介なトラブル、口腔機能低下

口腔機能低下症(オーラルフレイル)をそのまま放置してしまうと、健常な方にとっては当たり前の食事をすることが困難になってしまい、同時に咀嚼(そしゃく)だけでなく全身の筋力が衰えてしまったりします。特に高齢の方は要介護状態に繋がる事も珍しくないので注意が必要です。
その診断基準としては、口腔衛生状態不良・口腔乾燥・咬合力低下・舌口唇運動機能低下・低舌圧・咀嚼機能低下・嚥下機能低下の7項目の検査を行って、そのうち3項目以上が該当した場合に口腔機能低下症と診断するとされています。

誰にでも起こり得る口腔機能低下

加齢変化による口腔機能の低下は非常に緩やかに進行していくため自覚症状に乏しいのが一般的です。患者さん御自身も、『年だから仕方ない』と思って訴えない場合も多いように思います。
御自身の数年前の状況と比較して、下記の様なポイントに心当たりはありませんでしょうか?

口腔機能低下症のチェックリスト

DYSPHAGIA

低下症に伴う摂食嚥下障害

歯科界では最近摂食嚥下障害という単語が良く出てくるようになりました。我々は、食事をしたり飲み込むことを普通にして居りますが、むし歯歯周病でひとたび歯を失えばそれもままなりません。

普段はナニ気なくやってる「食べる」ということは、当たり前ですが生命維持に必要な栄養を体内に取り込む、味覚を楽しむ、食事の場面を通してコミュニケーションを楽しむなど、私たちが生活して行く上で非常に重要な意味を持ちます。
脳内の摂食中枢と嚥下中枢からの働きで無意識に口や喉を動かし、体外から食物や水分を取り込み嚥下し、胃まで送り込むこと・・・これを摂食嚥下運動と称しますが、この一連の運動に支障を来すのが摂食嚥下障害とされ、飲み込もうとすると本来の食道へ入らずに気管へ入ってむせてしまう、喉に残ったままになってしまう、というような症状が特徴的にみられます。

口腔機能低下症03

脳卒中やパーキンソン病などの神経や筋肉の病気も原因に挙げられたりは致しますが、何方も避けることが出来ない加齢も原因に挙げられますでしょう。実際問題としては70代の方の8割が、40代であっても4割弱の方が罹ってしまってるというデータもある程です。歯を失ってしまっていれば当然 該当しちゃう・・・ってことにもなります。(泣)

摂食嚥下障害で生じて来る諸問題は、肺炎・窒息・低栄養・脱水など生命の危険に直結するとても深刻なものばかりです。同時に食べられなくなるという事は、そういった生命危機と同時に、美味しいモノを味わう楽しみを失うということにもなりますのでQOL(生活の質)といった観点からも大きなマイナスとなります。

SIGNS OF DEPRESSION

口腔機能低下症の徴候は?

日常生活におけるお口の機能の僅かな衰えに気付かずに放置してしまいますと、楽しくお話ししたり、十分な食事を摂ることがままならなくなり、心身の活力低下に繋がってしまいます。
まずは、下記の諸項目に該当するモノが無いかどうかをチェックしてみましょう!

口腔機能低下の徴候

口腔機能低下の徴候

フレイルとサルコペニア

フレイルとは加齢に伴い身体能力が衰え虚弱になってる状態を指します。それがお口周囲に起こればオーラルフレイルと称するようになります。この状態は要介護状態には至ってらっしゃらないので治療による改善が期待出来ますでしょう。
他方、サルコペニアは老化に伴う筋肉量の減少を指す言葉。言うなれば筋肉の病態を指し示す用語でサルコペニアが進行するとフレイルも促進してしまうという関係にあります。

考えてみますと口腔周囲は筋肉だらけです。筋肉の動きなくして咀嚼がままならない状態を引き起こし、満足に食べることすら難しくなるのですから困ったことに『低栄養状態』を引き起こしかねなくもなります。
加えて歯を失い入れ歯になられた方はもうそれだけで咀嚼能力は落ちてるわけですし、そこに追い打ちをかける様に摂食嚥下障害が重なれば日常生活にまで支障を来すことが危惧されますでしょう。(泣)

自分自身も考えたくもない未来の姿ではありますが、何方も遅かれ早かれ確実にその方向に我々は向かっています。足腰が弱り歩行すらままならないような方が口元はナンら問題なく十二分に咀嚼出来るとは考えにくくもあり・・・備えあればナンとやらを常に意識したいモノであります。

DIAGNOSIS of ORAL HYPOFUNCTION

口腔機能低下症の診断

口腔機能低下症は、下記の7つの症状(口腔衛生状態不良口腔乾燥咬合力低下舌口唇運動機能低下低舌圧咀嚼機能低下嚥下機能低下)のうち、3項目以上該当する場合に診断されます。
項目毎にチェックして参りましょう!(図は日本老年歯科医学会によるモノです)

口腔衛生状態不良

舌表面を9分割し、舌苔の付着程度により目で見て評価します。舌の汚れはセルフケアの不足や舌機能の低下が顕著だったりすることが考えられます。それに対しての舌清掃指導も行います。

口腔衛生状態不良

口腔乾燥

唾液量の計測により評価します。御高齢の方には口腔乾燥(ドライマウス)の症状が出やすいように思います。回復は容易ではありませんが、唾液腺のマッサージや口腔体操等をオススメしています。

口腔乾燥

咬合力低下

現在の歯の本数により評価します。根っこだけ(残根状態)だったりグラグラの歯を除いた歯の本数が20本未満の場合に咬合力低下状態と判断します。原因は欠損だけに限らず筋力の低下も挙げられはしますが、これはすぐには改善しません。

咬合力低下

舌口唇運動機能低下

口唇の動きを見る『パッ』・舌尖部の動きを見る『タッ』・舌後方部の動きを見る『カッ』それぞれの音節を、10秒間で出来るだけ早く発音させ、その発音回数を数えて、1秒当たりの発音回数が6回未満だった場合に運動機能低下と評価します。
(測定機器『健口くん』で測定可能)

舌口唇運動機能低下

低舌圧

低舌圧は舌圧測定により評価します。舌圧測定器(JMS舌圧測定器™)のプローブを舌で硬口蓋に数秒間全力を用いて押し付け、最大舌圧を計測します。最大舌圧が30kPa未満で低舌圧と評価します。

低舌圧

咀嚼機能低下

咀嚼能力検査システム(グルコセンサ ーGS-Ⅱ™)を使って評価します。グミのゼリー(グルコラム™)を20秒間自由咀嚼させた後、10mLの水で含嗽、グミと水を濾過用メッシュ内に吐き出してもらい、メッシュを通過した溶液中に溶け出したグルコース濃度を咀嚼能力検査システム(グルコセンサ ーGS-Ⅱ™)によって測定します。グルコース濃度が100mg/dL未満の場合を咀嚼機能低下と評価します。

咀嚼機能低下

嚥下機能低下

嚥下機能低下は質問票に記入していただき評価します。

嚥下機能低下

INSTRUMENT to JUDGE

口腔機能低下症を判定する器具

診断に使う器具にはこういったモノがあります。当院にもあり活用しています。

3種の器具
舌圧測定器
咀嚼能力検査システム
舌口唇運動機能低下検査機器

舌圧測定器(JMS舌圧測定器™)

舌圧が低下すると、飲食中にむせたり食べ物が飲み込みにくくなったりします。舌圧はトレーニングによって維持や改善が可能と言われています。
写真は舌の運動機能を最大舌圧として測定する器具で、得られた測定値は摂食・嚥下機能や構音機能に関する口腔機能検査のスクリーニングの指標となります。

舌圧測定器(JMS舌圧測定器™)

舌圧測定

舌圧の測定

咀嚼能力検査システム
(グルコセンサ ーGS-Ⅱ™)

咀嚼とは食べ物を噛みながら唾液と混ぜ合わせ、ゴックンと飲み込める状態にすることを指します。咀嚼機能の減退は、歯の喪失や口腔周辺の諸筋群の筋力低下など様々な引き起こされます。
この器具により、グルコース含有グミ「グルコラム」を20秒間咀嚼し、「咀嚼機能検査キット・ろ過セット」で得られたろ液を「グルコセンサーGS-II」を用いて測定、咀嚼能力をわずか6秒で数値化します。術前後の咀嚼能力の比較が行えるメリットが有ります。

咀嚼能力検査システム(グルコセンサ ーGS-Ⅱ™)

咀嚼能力検査

咀嚼能力の測定

舌口唇運動機能低下検査機器
(健口くん)

本体内蔵のマイクを患者さんの口元に近づけて開始スイッチを押すだけでオーラルディアドコキネシスの測定が可能な機械です。

舌口唇運動機能低下測定用機器『健口くん』

「パ」・「タ」・「カ」それぞれを5秒間すばやく発音してもらい測定時間内の発音回数を測定し1秒あたりの回数を表示します。動画は20代女性の「タ」の測定です。健常値は年齢・性別・音により異なりますのでその一覧表も貼り付けますね。

舌口唇運動機能低下測定
舌口唇運動機能低下測定『オーラルディアドコキネシス』
舌口唇運動機能低下測定の健常者の測定値

MEASURES AGAINST DEPRESSION

口腔機能低下症への対策方法

考えてみれば歩行困難に陥らないように『歩く』ことが推奨されます。体を動かしたり鍛えたりすることを否定される方はいらっしゃいませんでしょう。
口腔機能も同様です。常日頃から鍛える・・・って言うと変ですが、よく噛み十二分に運動させることが欠かせません。
先人達は『ひと口何十回噛もう!』と言ってたはずです。経験則で解っていらしたんでしょうね。しっかり噛めるように心掛けましょう。

咬合の回復の重要性

歯が無ければ咬合も咀嚼もままなりません。訓練するにもまずは欠損歯がある方の場合にはその欠損を補わねばなりません
下記のそれぞれの対策に関して詳細をお伝えすることが可能ですので、当院のスタッフにご相談下さい。

咬合回復の方法

次のような回復方法があります。それぞれに一長一短がありますので、リンク先で御確認下さい。

咬合回復の3種の方法
インプラント
ブリッジ
入れ歯

お口の機能を維持・向上させるトレーニング

従来は我々歯科医療従事者も、むし歯を治したり歯周病を予防するのが務めだと思って居りました。それが昨今では、下記の様にお口が乾いていても食べにくかったり話しにくかったり痛かったりするような不快症状が出てしまうのでその対策をしていくのも大事な役割であると認識するようになりました。
簡単に出来る下記の様なことだけでも口腔機能低下症は防ぐ事が可能だと言われています。

お口の機能を維持・向上させるトレーニング①

お口の機能を維持・向上させるトレーニング②

お口の機能を維持・向上させるトレーニング③

その他の各種対策方法

当たり前にいつでも何処でも出来ることを繰り返し反復練習することが宜しいようです。幾つになっても我々は生きてる限り口腔周囲を使わない日は来ませんでしょう。生涯に渡り『元気ハツラツ!』でいる為にも心掛けたいものだと思います。


その他の各種対策方法①
その他の各種対策方法②
その他の各種対策方法③
その他の各種対策方法④
その他の各種対策方法⑤

EARLY DETECTION/EARLY PREVENTION

早期発見・早期予防が大切

当たり前ですが、『食べる』ことはより良き全身状態を健全に保つために欠かせません。
食べ物を噛み砕き、咀嚼することに意味が無ければそもそも歯は存在しなかったはずなんです。口が単なる開口部であって歯の存在に意味が無ければ、発生学的にはダイレクトに喉や食道を経由して胃に入るだけだったはずでありましょう。
進化の過程で歯が現在のようになって来たことには大きな意味があると言わざるを得ません。

オーラルフレイルにより口腔機能が機能が低下してしまうと、全身の衰え(フレイル)に間違いなく繋がります。(泣)
我々人間が良質なタンパク質を摂取するためには、肉や魚、乳製品など様々な食材をバランス良く食べることがとても重要になります。高齢になり動物性タンパク質の摂取が少なくなる傾向は何方にもあることですが、肉や魚は筋肉を作るためには欠かせない食材です。口腔機能低下症になってしまうと、それらの食材を摂取・咀嚼しにくくなるためタンパク質の摂取量が減少し低栄養状態に陥ってしまうと言われています。

早期に発見し、適切な処置をすることで口腔機能低下症を予防することが可能です。
つまりは、早期発見・早期予防を心掛けることで全身の衰え(フレイル)を間違いなく防ぐことが可能です。各種の器具を用いて体重測定のように今の状況を数値化し、口腔周囲の衰えをしっかりと予防し寝たきりなどの要介護状態になるリスクを防ぎ、健康寿命を延ばすことでより良き老後生活を楽しんで参りましょう!

執筆・監修歯科医

口腔機能低下症オーラルフレイル