BRUXISM

歯周病や顎関節症の原因にもなる歯ぎしり

日々、大勢の方のお口の中を拝見してますと、7~8割の方に『歯ぎしり』の痕跡が見られます。そこで『歯ぎしりをなさってますね?』と伺うとほとんどの方から『私は歯ぎしりはしてません』、『指摘されたことはありません』といったお返事をいただきます。統計的には睡眠時の歯ぎしり・くいしばりは国民の80%に見られるんだそうですが、自覚なさってる方はとても少ないように感じます。

考えてみますれば、深さ1ミリのむし歯だってイヤなモノだったり致します。それが先端が2ミリぐらいすり減ってるのにお気付きにならないのは宜しく無いように思います。

歯ぎしりは、日中には出せないような凄まじい力なんだそうです。無意識に3~4倍の強大な力が歯に加われば、良質な睡眠の妨げになるだけでなく詰め物が欠けたりすり減ったり、酷い方になると歯が割れたりすることまであります。また、歯は健康であっても歯周病を悪化させて歯が揺れたり、歯を失う原因にもなり得ます。

TCHもそうなのですが、歯ぎしりは顎関節症のリスクを高めたり肩こり頭痛などの原因にもなるため適切な対処が必要になります。

実際にすり減ってしまった歯の姿

『歯ぎしり=キーキー、ギリギリ、ガリガリ』といった音が発せられるイメージが強かろうと思いますが、一般的に連想する歯ぎしりの他にも咬みしめ・食いしばりといった歯や顎に負担をかける口腔内の悪習癖(ブラキシズム)があります。

TYPE

歯ぎしりの種類

ブラキシズム(口腔内の悪習癖)は大きく分けて次の3つに分類されます。グランディングやタッピングは音がするので御家族に指摘されやすいのですが、クレンチングは音がしないので気付きにくいようです。
睡眠時だけなら良いのですが、クレンチングのように覚醒時にも起こる不良習癖もあります。TCHがそれで、自覚がないのが特徴でもあり、全くしないようにするのは・・・厄介です。(泣)

グラインディング(歯ぎしり)

上下の歯をギリギリと擦り合わせる習癖のことで、歯ぎしりの中でも最も多くの方に見られます。
上下の歯を強く噛んだ状態で横に滑らせこすり合わせる動きで歯に大きなダメージを与えます。歯が擦り減って平らになってしまうのが特徴です。音まではしないケースもあったりするようです。

グラインディング(歯ぎしり)

クレンチング(食いしばり)

上下の歯を強く咬み合わせる習癖のことです。食いしばり・咬みしめはこれに該当します。
上記のグラインディングと違い横に擦り合わせることはありません。日中、力仕事などの時に無意識に食いしばるように、就寝中にも同じように力が入ってしまうようですが、音が出ないために自覚されたり御家族に気が付かれることはありません。

クレンチング(食いしばり)

タッピング

上下の歯をカチカチと咬み合わせる習慣のことで、比較的頻度は少ないです。寒さに震えている時のように歯を小刻みにぶつけ(タッピング)小さな音を出します。

CHECK for TEETH GRINDING

歯ぎしりのチェック

下記に該当するようなポイントがあったりされませんか?

歯ぎしりチェック・ポイント!

  • 日中、ナニかに集中している時に歯を食いしばっていることがある
  • 起床時にナンだか顎が強ばったり疲れている
  • 歯ぎしりしているとご家族に言われたことがある
  • 詰め物が頻繁に取れたり割れたりしてしまう
  • 頬や舌にラインやギザギザの跡が見える
頬の内側の圧痕①

頬の内側の圧痕②

  • 歯の根元がくさび状に削れている
くさび状欠損

  • 知覚過敏がひどい

  • 下顎の内側や上顎の真ん中に骨隆起がある
上顎骨隆起

下顎骨隆起

  • 歯ぐきがモコモコしている
歯肉の骨隆起

  • 歯がすり減って短くなっている
  • よく見ると歯の表面にヒビが入っている
切縁が真っ平ら

顕著な摩耗や歯の表面のヒビ

CAUSE

歯ぎしりの原因は?

何故、自分自身の歯を痛め付ける歯ぎしりが生じてしまうのでしょうか? 多くの臨床研究がなされているのにも関わらず、歯ぎしりのメカニズムは完全に解明されてはおりません。調べてみても実際には解らないことの方が多いってのが正直なところです。
原因が解らないので厄介なのですが、それでも下記のような様々な要素が絡んでいるのだけは間違いがないようです。

ストレス逆流性食道炎
歯並び & 噛み合わせ喫煙や飲酒
日中の噛み締め顎関節の変形

ストレス

歯ぎしりの原因の最有力候補がこのストレスです。口腔諸筋群の過緊張に伴い噛む筋肉が凝ってしまう事で起こるとされています。
ストレスと歯ぎしりの因果関係、俄にはその関係性は理解されにくいですよね。
厄介なことに歯ぎしりは脳の指令によって起こるストレス解消の為の行動だと考えられています。ってことは、無理矢理歯ぎしりを止めようとすると逆に『歯ぎしり出来ない』ことが脳のストレスとなり歯ぎしりを助長することも考えねばなりません。

『歯ぎしりは止められないし、むしろ止めてはいけない』という考え方が現在では主流にもなって来ております。その意味で後から詳述するマウスピースの対応がベストなのかもしれません。
ストレス発散を上手に出来ないような性格の方が歯ぎしりをしやすいと言われます。加えて、競争心が人一倍強い人や、いつも時間に追われている方なども歯ぎしりをする傾向が強いようです。
人間はここ一番って時に『歯を食いしばって頑張る!』じゃないですか。強いストレスや苦痛に晒された際にポカンと口を開けてることは一般的には無くて無意識に歯を食いしばりますもんね。

歯ぎしりの原因とされるストレス

人間は、食いしばることで痛みを緩和させてくれる作用(鎮痛作用)を持つβエンドルフィン(※)という物質が脳に分泌され苦痛が軽減されます。強いストレスに晒されっぱなしの方は、脳がそのβエンドルフィン(※)を分泌しようと意識しないうちに食いしばる習慣を身に付けてしまうようです。

βエンドルフィン ⇨ 脳内で働く神経伝達物質の一種で、鎮痛効果や気分の高揚・幸福感などが得られるため脳内麻薬とも呼ばれる。脳内で働く神経伝達物質(エンドルフィン)のひとつでモルヒネと同じような作用をする物質

逆流性食道炎

胃から食道へ胃液が逆流してくる病気『逆流性食道炎』と歯ぎしりとは密接に関わり合いがあるようです。胃液は強酸なので歯に頻繁に触れるようなことがあれば歯を溶かしてしまいます。嘔吐を頻繁に繰り返すような摂食障害のある方は歯へのダメージも多いことが知られています。
歯ぎしり(口を動かす)をすると唾液は潤沢に溢れて来ます。それにより強酸を中和させようとする人間の身体の仕組みなんでしょう、その胃液対策(中和)のために歯ぎしりが誘発されてしまうようです。

歯並び & 噛み合わせ

我々は成長時にも噛み合わせは狂います。考えてみたら乳歯から永久歯への交換期には噛み合わせはメチャクチャです。
それでも若いウチには備わってる柔軟性がカバーしてくれますが、大人になってからむし歯歯周病によって歯の喪失、歯の動揺、極度のすり減りなどによって咬合が微妙に変化してくると歯ぎしりをしてしまうんだそうです。咬合や歯並びの悪さを補う意味で我々に生来備わってる体の働きなのかもしれません。

喫煙や飲酒

嗜好品摂取によっても歯ぎしりを引き起こす可能性が高くなると言われます。コーヒー等のカフェインを多く含む飲料は交感神経を優位にさせてストレスや緊張をより強くすることから歯ぎしりを助長させてしまうようです。

日中の噛み締め

力仕事などで常態的に食いしばってる方、無意識な日中の噛み締め、上下の歯を接触させる癖(TCH)がある方、筋肉がその状態を記憶してしまい就寝中にもなさってしまうようです。

顎関節の変形

肘や膝だって酷使したり加齢変化で関節は磨り減ったりされますでしょう。顎関節も例外ではありません。関節の変形を来せば噛み合わせは狂いますから歯ぎしりで補正をしようとすることが考えられます。

歯が磨り減って短くなり、しみる

考えてみたら1ミリの深さのむし歯が出来たらイヤな感じになりますでしょう。ところが歯ぎしりによって噛み合う面(咬合面)が2~3ミリ磨り減ってしまい歯が短くなっても気が付かない事が多かったりするのです。
それが原因となりむし歯では無くとも神経に近づいて『しみる』症状が出て来ます。

歯が磨り減って短くなり、しみる

噛むと痛い、違和感がある

歯の根っこの周囲には歯根膜という薄い膜状のクッションが存在し、それがナニかを噛んだ時に硬い・軟らかいなど感じるセンサーになっています。
通常の咬合力であれば問題にはなりませんが、手や足と一緒で歯ぎしりによりこの膜に過剰な力がかかると挫滅・損傷してしまい、噛んだ時に痛みが出てしまいます。

歯を支える骨が痩せていく

強い歯ぎしりによって歯は動揺を来たし、歯を支えている骨が溶ける歯周病が悪化します。

歯周病がより悪化し、歯を支えている骨が痩せていく

骨がコブのように盛り上がってくる

歯ぎしりやTCHが酷い方は、骨隆起と呼ばれるコブのようにものが歯ぐきに見られるようになります。
下記の様な場所に見られたり、あちこちの歯ぐきがモコモコしてくることも珍しくはありません。病気では無いので放置するしか無いのですが、部分入れ歯などになると当たって痛むので・・・厄介なんです。

骨がコブのように盛り上がってくる①
骨がコブのように盛り上がってくる②
骨がコブのように盛り上がってくる③

エラが張ってくる

噛むために活躍する筋肉は、顎の角の部分・・・いわゆるエラに付着してる筋肉(咬筋)です。
歯ぎしりがある方は夜間の意識の無い時にこの筋肉を激しく筋トレさせてるのと一緒になりますので発達して、エラが張り出したようなお顔付きになります。

エラが張ってくる①
エラが張ってくる②

下の前歯が隠れて見えなくなる

歯は思ってらっしゃるより軽い力でも動いてしまうモノです。継続的に力を加え続ければ・・・あまりに重い家具を置けば床が凹むかのように噛み合わせも変化し、下の歯が見えなくなったり、歯自体が顎にめり込むような状況が生じます。

下の前歯が隠れて見えなくなる

頭痛や肩こりに悩まされている

口腔周囲の諸筋群の中には、首や肩の筋肉と繋がってるモノが多く存在します。歯ぎしりによって噛むための筋肉が過緊張状態に陥れば肩こり・首こりが出たりも致します。
また、側頭部の筋肉も噛み締める咬合時には大活躍してしまうので、歯ぎしりによる頭痛も引き起こされます。頭痛の大多数は頭内部のトラブルではなくこれが原因ではないかという説があるほどです。

頭痛や肩こりに悩まされている①
頭痛や肩こりに悩まされている②

詰め物が取れたり割れたりする

考えてみたら口の中の修復物は接着剤でくっつけてあるだけです。通常の咬合力であれば問題にはならずとも接着剤の接着力を上回る過剰に強大な力が加われば脱離もしましょう。
セラミック系やプラスチック樹脂の詰め物はモチロンのことながら、金属だって割る方がいらっしゃいます。
それが予想される際にはナイトガードと呼ばれるマウスピースをオススメしてはいるのですが、自覚症状の無い歯ぎしり故にお使いいただけずにモノ凄く硬いジルコニアでさえ割れてしまった経験があります。

詰め物が取れたり割れたりする

健全な歯まで割れる

恐ろしいことに、歯ぎしりで御自身の歯を噛み砕いてしまう方が多くなりました。そうです、真っ二つに割れてしまうのです。(泣)
むし歯などで神経を除去した歯は枯れ木の脆くなり割れやすいのは解るのですが、ネット上でも時折話題になってますがコロナ禍以降の昨今では漠たる不安が重くのしかかるストレスが蔓延してるせいなんでしょうか、まったく問題のない健全歯まで割れてしまうことがあります。30年以上も歯科医をやってますが、驚きを隠せません。

健全な歯まで割れる

睡眠時無呼吸症との関連

因果関係が明確に示されてはいないのですが、歯ぎしりのある方に就寝時の無呼吸状態になることが高頻度で観察されております。睡眠時無呼吸症を起こしてしまう可能性が高いようであります。
睡眠時無呼吸症は不安やストレスなどの障害を引き起こす可能性がありますし、その不安から誘発され歯ぎしりに繋がる可能性が否定出来ないのです。
睡眠時無呼吸によって引き起こされる低酸素状態を回避するために、歯ぎしりをすることによって心身を奮い立たせ(覚醒?)る我々の身体にそもそも備わった機能なのかもしれません。

歯ぐきとの境目が削れる

歯ぎしりにより歯が激しく揺さぶられると、歯の表面を覆うエナメル質とその下にある比較的軟らかい象牙質の境目に応力ってヤツが集中し、歯が砕けてしまったかのように削れて来ます。
ちょうどその部分には、歯の中心部のいわゆる神経(歯髄)と通じる象牙細管があって、むし歯ではないのですが砕け削れることで神経と近くなりしみることを主症状とする知覚過敏を起こします。場合によっては歯の神経が死んでしまうこともあるので厄介です。

歯ぐきとの境目が削れる

顎の関節が痛み口が開かなくなる

肩こり・首こり・頭痛だけでなく、顎関節と頭蓋骨の間でクッションの役目をしている関節円盤という軟骨が強く圧迫されて痛んだりズレてしまうトラブルが生じます。顎関節症の大きな要因だったりもしますが、この関節円盤は本来ならスムーズに顎を前後左右に動かす役割を果たすのに、歯ぎしりによって関節円盤が極度に圧迫されるとお口の開閉口時に音が鳴るようになったり、場合によっては変形を来たし顎をスムーズに動かすことが出来なくなってしまいます。

顎の関節が痛み口が開かなくなる

TREATMENT

歯ぎしりの治療方法

歯ぎしりは原因不明のトラブルであるため根本的原因を排除する治療法が確立されてるわけではありません。その為に歯ぎしりによりもたらされる悪影響を回避したり、完全に治すことは難しいと言わざるを得ません。
本来ならストレス発散が第一かとは思いますが、現代社会を生きる我々にとっては難しいことでありましょう。それでも、対症療法的にではあっても歯や歯ぐき、顎や口腔周囲諸筋群を守ったり症状の緩和を図る下記の様な事が推奨されています。

歯ぎしりの治療方法のポイント

マウスピースによる夜間のガード

ナイトガードとも呼ばれるマウスピースによって、歯の表面や詰め物・被せ物を守る手法を用います。このナイトガードによって歯は守られますが、マウスピースは酷い方ですとズタズタになります。
ただし歯を守ることは出来ますが、強大な力が歯ぐきや顎に加わることは回避出来ません。

噛み合わせの治療

例えが変ですが、食卓のテーブルや椅子にしても4本の脚のウチ1本でも不具合があれば使いにくいですしストレスを感じてしまいます。同様に、欠損や疼痛で片側でしか噛めないといったバランスの不調があればその解決は図るべきでしょう。
また、本来なら上下14本の歯が14組で噛む(親知らずが噛み合ってれば16組)ところ、半数以下でしか噛んでらっしゃらない方は大勢いらっしゃいます。その場合には矯正を含めた咬合回復を図っていく必要もあろうかと思います。

お口周囲の筋肉マッサージ

口腔周辺の筋肉が過緊張状態にあると歯ぎしりが生じやすくなります。ご自身の手で咬筋(頬)などをマッサージをなさるのも有効な手段です。筋肉のこりが解消され楽になれば歯ぎしりも軽減されますでしょう。

良質な睡眠を心掛ける

就寝前の過度な飲酒は症状を悪化させると言われます。また、枕を高くせずに、仰向けで眠ることにも歯ぎしり防止効果があると言われています。
睡眠が浅いと歯ぎしりは起こりやすいので、ぐっすりと眠れる環境作りを心掛けたいモノです。

良質な睡眠を心掛ける①


良質な睡眠を心掛ける②

薬物療法

日本補綴歯科学会のガイドラインによれば薬物療法は推奨されません。また、顔のシワ取りなど美容診療にも用いられるボトックス(ボツリヌストキシン)治療が歯ぎしり治療に際して咬合料(噛む力)をコントロール(筋肉の働きを和らげる)するために行われたりもするようですが、これも学会では推奨されないとされています。あくまでも自己責任でやって下さいって事になろうかと思います。

自己暗示

そんな事で効果があるのかと思われるかもしれませんが、寝る前に布団の中で『今夜は歯ぎしりをしない!』と20回ほど呟くだけでも効果があるそうです。NHKの『ためしてガッテン』でも取り上げられてました。
たったそれだけのことでも意外にも4割程度軽減されるっていうんだから人間の心と体の連係プレーってのは実に不思議なモノであります。

自己暗示も有効
自己暗示法の実際

執筆・監修歯科医

悩ましい歯ぎしり対策