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悩ましい顎関節症

皆さんにも御経験がお有りになりませんでしょうか? 顎の動きが悪く感じたり顎の開閉口時にカックンと音が鳴ったりするトラブルが急増しています。次のような症状を顎関節症(がくかんせつしょう)と称しています。この顎関節症は、むし歯・歯周病と並ぶ第三の歯科疾患とも言われており、同じように治療や予防は大切と考えられています。

顎関節症は、多くのケースで頭痛・肩こり・耳鳴りなどの諸症状と同時に起きていることが多く、歯科なのか耳鼻科の受診なのかすら判断が付きにくかったりもされますでしょう。
その意味で非常に解りにくいトラブルとも言えようかと思います。

顎関節症④

SYMPTOMS

顎関節症が疑われる症状

  • 口を開けようとすると顎が痛い
  • 顎を動かすと耳の前辺りからがする
  • 大きな口が開けにくい
  • 逆に口が閉じにくい

目 次
顎関節症ってナンでしょう?
顎関節症の症状は?
顎関節症の原因は?
顎関節症の治療法は?
顎関節症に関するQ&A
(リンク先の『顎関節症』をクリック!)

推定の患者数は1900万人とも言われています。芸能人の方でも時折いらっしゃいますが、20~30代の女性の罹患率が高いと言われています。

顎に不調和を感じて居る方の割合グラフ

顎関節症をめぐっては、噛み合わせやストレス起因の歯ぎしりなどが原因とされて来てました。実際問題として顎関節症の症状をナニか1つの原因で説明することは難しいことも解って来ました。
顎関節症を引き起こすには多種多様な要因が絡み合い、お一人お一人それらが複雑に交錯して起こると今では考えられています。ある人は歯ぎしり食いしばり・精神的ストレスが微妙に重なって症状を来します。
という事は、皆さん御自身がセルフコントロールをしていかない限りなかなか治らない・・・その場でパッと解決出来るようなモノではないことが御理解いただけますでしょう。
基本的な解決方法は経過観察だったりも致します。何故なら御本人に自覚がなくとも原因が御本人にある事が大多数を占めるからに他なりません。経過観察することだけで70%の方が自然治癒するっていうんだから逆に歯科医師としては迂闊に削るようであったりしてはならない疾病とも言えるのかもしれません。

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顎関節症ってナンでしょう?

顎の関節の仕組みは?

考えてみれば、我々の顎は特殊な動きをしています。顎の関節はちょうど左右の耳のすぐ前にある顎関節ってヤツですが、お口の開け閉めの回転運動だけでなく顎を前に突き出す滑走運動もします。
しかも、ナニ気なく行ってますが前後だけで無く左右方向にも移動可能な多彩な動きを可能とするような微妙に入り組んだ形と機能を保持しています。

顎関節は筋肉で動く

それだけの複雑な動きをさせるには多くの筋肉が付着していて、同時に関節周辺には左右共に多くの神経走行が見られます。それらが下の顎を支えると同時に食事や会話時に連動して活躍してくれてはいますが、その顎の関節や周囲の諸筋群であったり神経が何らかの原因で痛んだり動きにくくなってしまうのが顎関節症と呼ばれるトラブルであります。

広がる不快症状

2020年のコロナ禍以降・・・いや、もっと以前の電話機能が進化してメールが打てるようになった携帯時代やスマホの普及期辺りから顎関節の不快感を訴える方が多くなって来たと言われています。
『食べ物が噛みにくい』、『顎を動かすと変な音がする』、『顎が思うように動かない』、『痛くて口が開かない』といった顎そのモノのトラブルに加え、肩こり偏頭痛腕や指のしびれ、時には耳や鼻にも不快感を覚えることもあるようです。

実に悩ましい顎関節症

症状は多岐に渡りますが、範囲も顎に限局したり広範囲に及んだり、症状も軽かったり重かったり、個人差が大きいのが特徴と言えますでしょう。 日常生活に支障を来すほどに悪化されてる方もいらっしゃるので、顎関節症の原因を探り対処方法を見出して重篤化することを予防出来れば・・・と思います。
患者さんは女性に多く、年齢層は10代後半から増加し20~30歳代で最大になりますが、もっと上の世代では少なくなる傾向が見られます。
下記を参考になさってみていただき、歯科医にご相談下さい。適切な対処で平穏な日常生活を送れるようにして参りましょう。

SYMPTOMS

顎関節症の症状は?

顎関節症の症状を訴えて受診なさる患者さんで、一番多いのが『口を動かすと顎が痛む』です。
口を開こうとする際に、こめかみ部や耳の前方だったり、もしくは頬部の痛みを訴えられます。それが進行した結果として今度は『口が開きにくい』『口が閉じにくい』状態に移行するようです。

お口を開けようとした時に『カックン』といった異音を発することはありませんか? これも顎関節症の症状のひとつに挙げられます。
音だけで症状が無いようであれば経過観察だけになりますでしょう。痛みが伴うようになったらば酷くなる前に対策を講じねばなりません。

関節円盤

音を発するメカニズム

顎関節症の痛みは、悪化した場合には頭・耳・首・肩など筋肉で繋がってる各所にも痛みを誘発します。逆にそれら頭頸部の各所に異常が見られた場合には顎関節が一番の原因だったなんてことも有り得ます。

顎関節症の代表的な症状

以下の症状のうち少なくとも一つ以上がある時には顎関節症が疑われます。これらの症状は、良くなったり悪くなったりを繰り返すことが多いようです。そのほとんどは心配には及びませんでしょう。チョイとした生活習慣の改善で病状は軽減されることがほとんどです。

  • 顎関節やその周辺に違和感を感じる
  • 食べ物を噛む時に痛みを感じる
  • 食事をしていると顎がだるい
  • 口を動かすと耳の前方の顎関節に痛みがある
  • 噛みしめると顎関節が痛い
  • 口を開けたり閉じたりする時に顎関節でがする
  • 口が開けにくい
  • 口の開閉がスムーズにいかない
  • 口が左右にうまく動かせない
  • 顎が外れることがよくある

それ以外にも見られる副症状とは?

必ずしも顎関節症が原因とは言えませんが、上の代表的な症状以外にも顎の周辺に限らずに全身の様々な箇所に下記の様な症状が現れることがあります。

  • 頭痛や首・肩・背中の痛み、腰痛・肩こりなどの全身におよぶ痛み
  • めまい耳鳴り・耳がつまった感じ・難聴
  • 眼のつかれ・充血等の眼症状、涙が出る
  • 鼻の症状(鼻がつまった感じ)
  • 顎が不安定、噛み合わせが上手に出来ない
  • 歯・舌の痛み、味覚の異常口が渇く感じ
  • 嚥下困難、呼吸困難、四肢のしびれ

CAUSE

顎関節症の原因は?

これだけ進化してる歯科学ではありますが、正直言うと解らない点がまだまだ多々あるのです。代表格がこの顎関節症になりますでしょうか。下記に挙げるような様々な原因が取り沙汰されています。
私が歯科医になった頃は『上下の歯の噛み合わせの異常』が原因とされて乱暴なことに歯の表面を削ったりした時代もあったようです。これは現在は否定されています。何故なら多くの歯が喪失しどう考えても咬合が異常を来してるような方でも症状が無いのが大多数だから・・・であります。

いま現在、よく取り沙汰されるのは精神的緊張やストレスが顎周辺の筋肉を過緊張状態にさせることで噛み合わせがアンバラスになってしまい、無理な力が掛かり過ぎて顎関節に負担をかけてしまう点です。

ストレスも原因に挙げられる

同じような理由で歯ぎしりも顎の関節に大きな負担をかけます。また、生まれつき顎関節に変形症等のトラブルがある方や、顎関節に打撲・外傷を受けたことがある方はそれらが原因になり得ます。
顎関節症を引き起こす原因は1つだけではないようです。下記の複数の原因が微妙に絡み合って諸症状が発現すると言われます。

顎関節症の原因とされるポイント

  • 急激なストレス
  • 歯ぎしり
  • 何かに熱中したり緊張してのくいしばり
  • 不良な歯科治療(噛み合わせの悪化)
  • 唇や頬の内側を噛む癖
  • 左右どちらか一方でばかり噛む癖(片側咀嚼)
  • 頬杖・うつ伏せ寝・猫背
  • 事故による顔面打撲等の外傷
  • 大口を開けた、硬い食材を噛んだなどの顎の酷使
  • うつ病、睡眠障害等

歯ぎしりと顎関節症との関連

歯ぎしりや食いしばりは、日常生活における精神的、かつ過度の疲労も含む心身双方のストレスに起因していると考えられています。それにより引き起こされるのが顎関節症の各種症状や舌痛症です。人間の心と身体って密接に繋がってることを物語ってようかと思います。

歯列接触癖と顎関節症との関連

TCH(歯列接触癖)とは、本来なら噛んではいない日中に無意識に上下の歯を接触させてしまう不良習癖のことです。我々は本来、安静空隙と言って上下の歯は2ミリ前後離れていて基本的には触れ合ってはいません。それがナニかに集中してたりする時に30分単位で噛み締めっ放しの方がいらっしゃるのです。
それほど強大な力ではなくともその為には口を閉じさせる筋肉が常に働くことになるので、顎関節周辺に常なる緊張を与え顎関節症を誘発する原因となってしまいます。

原因と考えられるその他の要因

ナニ気なくやってる日常の生活習慣の中にも、顎関節症を誘発する様々な不良習癖ってのは隠れているモノです。下記の様なモノに心当たりはありませんでしょうか?
これらは左右どちらかの顎関節に大きな負担を掛けることになりますので、結果的に顎関節症を誘発する恐れがあります。特に成長期のお子さんには注意が必要ではないでしょうか?

  • 片側だけで噛んでしまう癖
  • 頬杖(ほおづえ)をつく癖
  • うつ伏せに寝る癖

TREATMENT

顎関節症の治療法は?

おそらく『こうすれば簡単に治りますよ』と言える対処法はなかろうかと思います。上記の様にストレス起因という話になれば我々が踏み込める領域ではなく、それどころか御本人ですら気が付いてないストレスも多々ありましょう。
そもそも歯科医院のユニット(診療用の椅子)に腰掛けただけで『ナニをされるんだろうか?』と不安がる方も大勢いらっしゃいます。それだって大きなストレスには違いありません。

治療法としてあげられるのは下記の4点でありましょうか。ポイントは、その昔に横行した噛み合わせの改善と称して『歯を削る』、『すぐに被せ物をする』といった元に戻せない不可逆的な治療は避けることにあります。何故なら原因がストレスにあった際には、削ってしまう治療法では症状の改善が見られなかった時に元の状態に戻すことが出来ないからです。下記の4つの治療法であればその治療による効果がなかった場合でも歯にダメージを残すことのない可逆的な治療ですから、良い結果が得られなかったとしてもマイナスにはなりません。

マウスピースの作製

スプリント(マウスピースのようなもの)を上下どちらか(一般的には上の歯)に装着し、それを睡眠中に使用することで夜間の無意識な噛み込みで生じる顎関節や周辺筋肉への負担を軽減させ、噛み合わせがバランス良く均等に落ち着く点を探ります。そうすることでズレてしまっていた顎関節が正しい位置に戻り、筋肉の過緊張状態が解消され顎をスムーズに動かすことが可能になります。さらに微調整をくり返して顎関節症症状が取れた段階で咬合状態に過不足があれば、よくよく相談の上で入れ歯や被せ物を入れたりする事で、噛み合わせの関係を再構築します。

開口訓練

リハビリトレーニングとして、一日数回、御本人がご自身の指を用いてストレッチ的な開口を行うものがあります。急性期の痛みが和らいだ時点で、少し痛みを感じる程度に顎関節を動かしてみると痛みの改善が早まります。ただし開口訓練時の若干の疼痛には限度があります。ほどほどに止めておきましょう。

マッサージや温湿布

親指の付け根や指先で顎関節周辺をゆっくり押し回すようにマッサージします。痛みが強まるほどに揉んだりするのは逆効果と言われます。

マッサージも効果的

蒸しタオルを5分ほど当てて温めるのも効果的と言われます。痛む部位にしてレーザーを照射することもありますが、これは照射することで諸筋肉の血流を改善させることを目的にしてますので蒸しタオルと同じ効果が得られますでしょう。

習慣や癖を修正する行動療法

大袈裟な言い方になりますが、顎関節症を悪化させてる『犯人は御本人』だったりすることがほとんどです。モチロン御本人に意識は無く、無意識の行動・姿勢・習慣等が症状を起こしやすくするようです。根本的原因の解決を図りませんと、仮にいったん落ち着いたとしても再発する可能性が考えられます。
そのような問題行動を御自身で発見することは容易ではありませんが、歯科医療スタッフに指摘されたりしたら、まずはその行動を是正することが症状改善に大きく影響すると思われます。

良くないとされる習慣や癖を避ける!

  • スマホの長時間操作をしない
  • 上下の歯を接触させないようにする(TCHの改善)
  • あおむけに寝る・低い枕の使用・うつぶせ寝はNG
  • 顎を突き出すようなアィ~ンをしない

前傾姿勢や猫背等の姿勢もマイナス要素

  • 頬杖・猫背の改善
  • 爪かみ・筆記具かみ・うつぶせ読書を避ける
頬杖

爪噛み

  • 重量物運搬もマイナス行為
  • 首の牽引をしない
  • 硬い食材を噛んだなどの顎の酷使
  • 緊張が持続する仕事、パソコンの長時間作業、精密作業はほどほどに

執筆・監修歯科医

悩ましい顎関節症