歯科用金属の高騰に歯科医師が悲鳴をあげています
歯科用金属(銀歯の材料)
多くの皆さんのお口の中に、いわゆる銀歯(金属の被せ物や詰め物)がお有りになりませんでしょうか?
この銀歯は、12%金銀パラジウム(金:12%、パラジウム:20%、銀:50%、その他を含有する貴金属系の歯科用合金)という合金が原料となります。
いつ頃からナンでしょうか、私の口の中にもありますし、ってことは少なくとも半世紀前には既に主流でありました。
見た目こそ悪かったりはしますが、我が国においての保険診療時の歯科治療においてはスタンダードと言っていい素材に間違いはないでしょう。
材料には必ず一長一短というモノがありますが、この金属は白いレジン(プラスチック素材)とは比較にならないような耐久性や強度が備わっており、今後も保険診療から外されるってことは考え難いと思われます。
我々は、型取りしたモノを模型に起こし、それを歯科技工士さんに委ねてその一つ一つの技工物に対し手間暇掛けて鋳造・研磨するというオーダーメイドな対応をしてる・・・ってことになります。
その金属が異様に高騰しています(泣)
この合金に含まれるパラジウム。
地球温暖化回避の為に叫ばれて久しい排出ガス規制ってのがありますが、クルマに組み込まれる『排ガス浄化装置』を作る上で欠かせないのがこのパラジウムだそうで、各国の環境対策に相俟って十数年前から異様な価格高騰傾向を見せております。
また、主な産出国がロシアで、携帯電話にも使われるような稀少メタルだそうで世界相場が異常に高騰、コロナ禍前からの世界的な政情不安も相俟って、それに連動して相場も上昇しちゃうんだそうです。
具体的に申しますと、私が開業した1993年に30gで67,000円程度だったモノが2021年には935,000円・・・・約14倍にも跳ね上がってるって言うんだから穏やかではありません。
我々は保険点数という厚労省によって決められた価格によって保険請求といったモノをして居りますが、モチロンその点数も見直しによって上がっては居るのですが、3~4倍程度の上昇に過ぎないので追い付いてこないのです。(泣)
どういった業種でも、仕入れ値より安く売る様なことはしないと思うのですが、現実的にそれが起こってるのが現状(歯科の窮状)であります。
窓口負担金も高騰しています
決められている窓口負担金
保険診療下においては窓口負担金というモノは予め決められております。
上記の様に実態に即してるとは言えない状況ではありますが、それでも厚労省は歯科医師の負担軽減のために半年とか3ヶ月おきに金属に関する点数を改正してくれています。
それに伴い窓口負担金も急騰してるのがここ数年の状態であります。
実際の窓口負担金
10年ほど前までは、奥歯の金属の被せ物は、大臼歯ですと3割負担の方で1本あたり2,000円程度だったように記憶しています。それがだんだんに上がって来てしまい数年前には3,000円程度、それが2020年以降は更に急騰し、同じモノが1本4,500円を越える状況になってきております。
皆様のご負担も大変かとは思いますが、それ以上に歯科医師の負担も極限に達しておることを御理解願えれば幸いです。
厚労省や当院の対策
厚労省の対策
当院では、補綴(ほてつ:被せ物や詰め物)の多くをセレックを用いたセラミック素材(CAD/CAM冠)に切り替えておりますが、これは厚労省の対策として2014年頃に保険導入され、当初は小臼歯(4番目と5番目の歯、全部で8本)だけだったのが、2021年に前歯部はモチロン、条件付きで第一大臼歯(6番目の歯)にも認められるようになりました。
また、安価な金属材料であるチタンも保険導入されるようになって来ております。
当院の対策
対策すると言ってもどうなるモノでもないのですが、金属アレルギーの問題も懸念される現状を鑑みて当院はセラミック素材を推奨しております。
金属修復は、どうしても『型取り ⇨ 模型化 ⇨ 技工士さんによるワックスアップ ⇨ 鋳造 ⇨ 研磨』という誤差の入る工程を重ねなければなりませんが、現在のセラミックは『スキャン ⇨ 機械が削り出し』なので強度も十分、精度は驚くほどに高く、審美性にもモチロン優れます。
執筆・監修歯科医
医療法人SDC 酒井歯科医院
院長 酒井直樹
1980年 福島県立磐城高等学校卒業
1988年 東北大学歯学部卒業
1993年 酒井歯科医院開院
2020年 医療法人SDC 設立